九十年の釜の灯
「おれが倒れたらこの‘いえ’がつぶれる。」
1998年 冬 県下南部に未曾有の大雪。
大病を患い入院する社長(父)、母、
続くように床に伏せる若頭の兄。
前年に祖母が他界、
同年、私が上京した。
兄弟の多い大家族だった‘いえ’は
まるでもぬけの殻、、、、
寒天の干し場が大雪にすべて覆われ生産の一時停止。
やむを得ない大減産。
先祖伝来の木造家屋もまさにやまず降りつづける雪につぶれるかのよう。
その冬も小笠原の寒天釜を絶やさず灯し続けたのが釜屋。
酒蔵でいう杜氏。
今年も灯された釜の灯。
創業者の先々代、先代もこの光景を見たらきっと喜ぶだろう。
来年で創業九十年。
釜屋が越の国から小笠原の寒天屋に来るのは今年で三十有余年。私が生まれる前。
例の年に若い庭衆にそんな言葉を伝えていたという。